第一章・第八話 その3「船長・輝斗の決心」輝ちゃんのエエように、おしやしたらよろし2008-11-25 Tue 19:17
さてどうしたものかと村田くんは、布団を前にして、一人立ちつくしておりました。
そもそもアンドロイドである彼は、眠らなくてもいいように設計されていました。それに常に最適な状況に体内環境を設定されている村田くんにとって、布団は物理的に必要ないのです。 しかし、消費エネルギー節約のため、主電源をカットし、パイロット動力のみを稼動させる『待機電源モード』に設定する事は可能で、その間にもともとインプットされている膨大な量の『知識データ』と、村田くんが実際に回収した『サンプルデータ』を組み合わせて、一種の『ストーリー』を無作為に作成し、マザーボードへ書き込む作業をする事も出来ます。この、人間でいうところの『夢を見る』プログラムは、二條京子が考案したものでした。 今までの彼は、研究室の一角の椅子に座った状態でその作業をしていましたし、贅沢に個室をあてがわれた事も初めての経験でした。 今日一日、いや、数時間を輝斗と一緒に過ごしてみて、一度言い出したらきかない『彼の頑固さ』を目の当たりにしましたし、言う事を素直に聞かない時には『機嫌を損ねる』傾向も感じとっていました。今日のところは彼と、二條家の人達のせっかくの好意に甘える事がベストだと判断し、布団の横に置いてあった糊のきいた浴衣を手に取りました。さっそく広げて袖を通してはみたものの、さすがに長身の体型には短いようでしたが、とりあえず帯をぐるっと巻いてちょうちょ結びにして、電気を消して布団に入ってみました。 初めて布団というものに横になってみた村田くんですが、いつもの椅子とちがってこれはこれで気持ちがいいものでした。『ふぁ~っ、ふとんて、あったかいモンなんやなぁ...。節電にもなりそやし...。これはクセになるかもしれへんなぁ...。ふーっ、そやけど船長は、想像してた通りの人やったなぁ。 僕のこと人間とおんなしよーに扱こーてくれはる...』 彼は、今日初めて出会った輝斗とその家族の事を、自身のマザーボードに書き込むために村田君は新しい分類コードを作成しました。それは今までには無かった『家族』というコードでした。 この夜、そのフォルダには、村田くんと二條家の人々とのほのぼのとした楽しい夢が、めいっぱいに書き込まれていったのでした。 もちろん、当の本人は知りようもありませんが、幸せそうな微笑みを浮かべて眠りに付く事も、彼にとって初めての経験でした。 スポンサーサイト
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