第一章・第四話 その3「家族、そして村田くん」 みな、おかえりやす!2008-07-15 Tue 19:34
そんな大人たちの様子を母・ミヒルの隣に座って見ていた輝斗が急に立ち上がり、向いに座っていた建斗と寿々江の間にちょこんと座りました。
「そうか、輝斗。お前はやっぱりエエ子やなぁ!」 とたんに建斗の顔がパッと輝き、輝斗を抱きしめました。 「そやな。輝ちゃんはカシコイさかいにエエ子でお留守番出来るモンな?」 寿々江もホッとしたように輝斗の頭をなぜました。 しかし、『そら見てみぃ』とでも言わんばかりの顔をしている建斗の腕の中にいる輝斗の口はへの字にまがっていて、父・京太郎を見つめる目にはひと粒の涙さえ浮かんでおりました。 輝斗には三人でアメリカに行く事は出来ないとわかっていたのです。かと言って、父の京太郎の口から母と自分にここに残るようには言いにくい、いや言えないのだと...。 自分がここに残る意思を態度で示せば成りゆきとして母も残ることになり、万事がうまく収まる。子供ながらに大人の事情を理解しての行動だったのでしょう。そんな輝斗の気持ちを察して京太郎は、心の中で『おおきに、かんにんな』とつぶやいていました。 というわけで、京太郎には寂しい話でありましたが、輝斗はもちろん妻のミヒルも京都に残し、単身ニューヨークへ出向する事になりました。 出発の日、二條一家は家族八人勢ぞろいで空港まで見送りに行きました。京太郎は輝斗に 「お父ちゃんな、これからあんまり帰って来れへんかもしれんけどな、お前のためにセーダイきばってくるしな。ゴリガンゆーてお母ちゃんら困らしたりしたらアカンのやで。えーな!」 そう言って、輝斗の頭をくしゃくしゃにして、京太郎は、独り旅立って行きました。 この時、輝斗は会えないとはいえ、遠くに住んでいる親戚と同じように、お正月とお盆の年に2回くらいは会えるだろうと考えていたのでした。 京太郎自身もその時点では、プロジェクトの開発内容を知らなかったので、まさかただの一度も帰って来られないような状況に自分が陥るとは考えてもいませんでした。 しかし、新しい職場である宇宙開発研究所のセキリュティは大変厳しい体制が取られており、情報漏えい防止の為、外部への連絡を取る事は一切禁止されていました。 家族でさえも研究所内部への立ち入りを禁止されており、妻のミヒルが、何回か訪問した際にも、研究所外部通路の一角に設けられている面会室で、ほんの少しの短い時間を過ごしただけでした。ここまで徹底されていると、まるで研究所は一旦入所したが最後、めったと外へは出れない一種の隔離施設か刑務所のようなところだったのです。 スポンサーサイト
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