第一章・第三話 その4「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?2008-06-17 Tue 14:46
輝斗が見知らぬ老紳士に向かって
「...。 どちらさんどしたんかいな...」 と言い終わらない内に 「輝ちゃん。会いたかった」 と、店の奥から老婦人が出て来て、輝斗をしっかりと抱きしめました。 輝斗の背中に腕をまわし、彼の胸に顔をうずめて「輝ちゃ~ん。輝ちゃ~ん。」とくり返し輝斗の名をつぶやいているその声はくぐもってはいましたが、泣いているように聞こえました。 とっさの出来事でしばらくの間、輝斗はどうしていいのかわからずに、されるがままにしていましたが、ハッと何かに気付いたようにその老婦人の両肩に手をおき、涙を浮かべている顔を覗き込みました。 「お、お母ちゃん? お母ちゃんか!」 「イヤ! もう輝ちゃん。 お母ちゃんに決まってるやんか。」 少し落ち着いた様子の老婦人は涙を拭いてちょっと恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべています。 ここ30数年来会っていない母の「ミヒル」でした。 突然の毋との再会がうれしい反面、まだ信じられないといった表情の輝斗は、改めて、座っている老紳士に向かって、 「...っ ちゅー事は、もしかして...。お父ちゃんか?」 と聞きました。 「...。 なんやお前、気ぃ付かへんかったんかいなー。」 母が家を出た30数年前よりさらに以前、かれこれ50数年もの歳月を経て帰宅した父「京太郎」は、ほくそえむような表情をうかべています。 「当たり前や。もう...。もう...。50年も、何の音沙汰も無しやったやないかぁ」 輝斗にはこんな場面で笑っている父の心境が、全く理解できませんでしたが、母に抱きしめられた彼の目には、キラリと光るものが見えていました。 しかし、そんな彼の気持ちをもてあそぶかのように、ニヤニヤしたままの京太郎は続けます。 「注文書に、ちゃーんと書いといたやろ? ジョニーK/フロム・イーストコーストて...。」 「えっ...?」 それを聞いた輝斗は目が点のようになりました。そして 「うぁあぁあぁあぁーーーーーー。お父ちゃんやったんか!」 と叫び声に近い大声をあげたかと思うと、年がいもなく子供みたいに泣き出してしまいました。 スポンサーサイト
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