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京都二條園2077

かぐや姫以来、初?の京都のSF小説。2077年を舞台にした京ことばによる奇想天外なストーリー。毎週火曜日更新!!はじめてお越し頂いた方は、「第一章・第一話 その1」からお楽しみ下さい。
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第一章・第九話 その2「宇宙船クルー面接の朝」表にたんとの人、待っといやすえ

 輝斗が朝食を摂っている間に、弥生とミヤコが、二條園の喫茶スペースの机や椅子を並べかえていました。一度に10名位の面接が出来るようにするためです。
 なんせ200人を越えそうな希望者が待っているのですから...。

 輝斗は、村田くん特製の味噌汁をすすりながら、『先にちょっとふるいに掛けたほうがよさそやな...。』と考えておりました。
さっさと食べ終え、つま楊子をくわえている輝斗の横で、
「いやぁ、『まったり』しておいしいですなぁ。『まったり』っちゅーのは、まさにこうゆーモンのことやなぁ」
と自分が作った味噌汁を賛嘆しきりの村田くんに
「...なぁ、村田くん。自分、拡声器かなんか持ってへんか?」
と、聞きました。
「拡声器ですか? 拡声器はおへんけど、僕の声量ボリュームを上げれば、代わりにはなる...思いますけど」
と、村田くん。
「ほう、声量ボリューム? は~っ、ほんまになんでもできんにゃなぁ。ホナ、外に出たら、ワシがゆー事をボリューム上げてくり返してゆーてくれっ、な。」
「へぇ。お集りのみなさんに聞こえるようにするっちゅーこっとすね」
「そーゆーこっちゃ。ハヨそれ飲んでしまい。ほれ、行くで!」
 村田くんは名残惜し気に味噌汁を飲み干した後、二人は椅子を一脚持って外へ出ました。店の前に椅子を置いた輝斗はその上に乗り、村田くんに
「ほな、たのむわな」
と囁き、すーっと深く息を吸い込んだ後、大行列に向かって話し始めました。


「え~~~、お集まりのみなさん。」
村田くんが続けます。
「え~~~、お集まりのみなさん。」
『船長、こんなモンでよろしか?』

村田くんは小声で言ったつもりでしたが、ボリュームはマックスのままでしたから、彼のよけいな声が大きく響き渡ってしまいました。
 大行列からはクスクスと笑い声が聞こえて来ました。輝斗は、まだ起きたてで腫れぼったい目でギロリと村田くんを睨み付けると、彼は『す ん ま へ ん』と
口パクで返事をしました。

 ふふふ。何でも出来る素晴らしいアンドロイドですが、かわいい所もあるようですね。

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第一章・第九話 その1「宇宙船クルー面接の朝」表にたんとの人、待っといやすえ

 翌朝、輝斗はハシリ(台所の流し台)から聞こえてくる都々の楽しそうな笑い声で目を覚ましました。時計を見るとすでに8時を少し過ぎていました。普段は弥生が7時前には起こしてくれるのですが、今朝は昨日の疲れを気遣ってか、そのまま起こさずにいたようです。
 あわてて作務衣に着替え、台所に向かうと、サロンエプロンをした村田くんと都々がハシリに立っていました。
 どうみても寸足らずの弥生のエプロンを着けた長身の村田くんの姿をみて、輝斗はプッとふきだしてしまいました。

「ぷっ? 村田くん。自分、何してんにゃ?」
「あ、船長。おはようございます!」
「あぁ、おはよう。都々もおはようさん。ほんで、何してんにゃな?」
「お兄ちゃんな、おみそ汁作ってくれたはんね。なー」
隣にいる都々が答えました。
「おみそ汁?て、村田くん、そんなモンまで出来んのかいな?」
「へぇ、奥さんのおてったいさしてもらお、思いまして。」
台所でお膳を拭いている弥生が、
「いやぁもー、さっきんおネギ切ってもーたらね、も~うびっくり。
あっちゅーまに切ってしまわはってねぇ」
「うんうん、すごかってん!。手品みたいやった~!」
都々はすっかり村田くんになついているようです。
「ついでにおみそ汁も作らしてもーてるんです。ボク、京都は白いお味噌やて頭ン中ではわかってるんですけど、白味噌のおみそ汁は初めてなんですわ」
と、嬉しそうにおタマの中の味噌をかき混ぜています。
 輝斗は、昨夜京子が『この子には私の記憶や経験がデータとして組み込まれてますのえ、ふふふ。』と言っていたのを思い出しました。

 美味しそうな匂いが立ちこめ、朝食の支度が出来た頃、表玄関の掃きそうじ(京都では朝に自宅の前の公道を掃除する『かど掃き』という習慣があります。)を終えたミヤコが、台所へ戻って来て
「輝ちゃん。もう表にたんとの人、待っといやすえ」
と言いました。
「んあっ? 今日はまたなんでしたんかいな。」
「輝ちゃん何言うといやすのん。面接ですやん、め・ん・せ・つ」
「ああぁ!そやったわ」
と、輝斗が店の玄関を見に行くと、ざっと見た限りでも200人程の人が集まっています。
「うわぁ~こらエライこっちゃ!」
昨日も『二條園デバー』飛来騒動で見物人が大勢ごったがえしておりましたが、今日の人達は、お行儀良くまっすぐ一列になって静かに並んでいます。

「こらアカン。今日は10時の予定やったけど、皆さんを待たすのんは気の毒なし、ちゃちゃっと食べて始めよか!、な!村田くん。
あれ?ワシのお箸どこやった?あれ...お箸どこや?」
とすっとんきょうな声を出しながら自分の箸箱を探し、お膳の上に置いてあるのを見つけ、手に取りました。
「ああ! こんなとこににあったわ...」
「きゃはは、お父ちゃんいつものとこにずっと置いたったのに...ふふっ」
都々の笑い声を聞きながら、
「ワシ、先ヨバレルで。いただきます!」
と慌てて朝食を食べ始めた輝斗でありました。

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第一章・第八話 その5「船長・輝斗の決心」輝ちゃんのエエように、おしやしたらよろし

 ふと何かを思い出したように真顔に戻った輝斗が、ボソッとつぶやきました。
「...。そやけど都々は寂しないやろか? なんしかまだ小さいサカイに」
 しばしの沈黙の後、ミヤコはうんうんとうなずき
「どっかで聞いたようなセリフやなぁ、と思たら、京太郎兄ちゃんも昔、今の輝ちゃんとおんなし事お言いやしたなぁ...。」
「...お父ちゃんが...。」
「ふん。えらい心配しゃはってなぁ...。家族、親戚はもちろん、ガッコのセンセにまで頼みに行かはったんえ。『輝斗のこと、よろしゅうたのんます』て...。
そやけどな輝ちゃん、都々ちゃんと弥生はんの事やったら、ウチにまかしとき。な!」
 いつもはやわらかい口調のミヤコが、めずらしくきっぱり力強く言い切りました。驚いた輝斗は嬉しそうな顔をして、
「おおきに、おばちゃん...。おばちゃんにそーゆーてもろたら、心強いわ。ホンマおおきに」
「何ゆーてんの?。せーだい、おきばりやす」

 ミヤコの手を取り、頭をさげていた輝斗がぽつりとつぶやきました。
「なぁおばちゃん。ついでにもひとつ聞くけど、これからさきの人生て...。もう決められてしもてるんやろか?」
「...。さぁ...、どうなんやろねぇ。決められてはいいひんのやろけど...。なるようにしかならへんのとちゃいまっしゃろかねぇ。」
「なるようにしかならへん...。ま、そら、そやろけど」
「ふぅん。まぁ、ウチは、ぽーっと生きて来た気ぃもするけど、あーする、こーするゆーのんは、なんやしらんまに自分で決めてんにゃろねぇ。そやけど、それが吉と出たり、凶と出たり...。今までいろいろおしたしなぁ...。」
と言った後、過去を振り返っていたのかしばらく間を置いてから、話を続けました。

「ものすご大事な事がすぐに決められる時もあるし、しょーもない事がなかなか決められへん時もある。そうかとゆーて、なんとのう決まってしもてたゆー事もあるし。
なんや上手い事、よー説明出来ひんにゃけど、
最後は輝ちゃんの思うようにおしやしたらよろしのとちがいまっしゃろか?」
「ふぅ~ん...。」
「ぷっ。いや! 宇宙船の船長さんに向かってえらそうな事ゆーてしもて...。ふふっ。ごめんやっしゃ」
ミヤコは風呂上がりですでに上気させていた顔を、さらに赤くして照れくさそうでした。

 今のミヤコの言葉を聞いて、輝斗はさきほど京太郎が言っていた『お前の思うようにしたらエエ』というセリフを頭の中で思い出し、『そや、何も強制された訳やない、ワシが決めたらええんや!』と考えるようになりました。
するとずいぶん気が楽になったようです。どうやら、いつもの前向きの姿勢を取り戻したのでしょう。

「いや、おおきにおばちゃん。おばちゃんのゆー通りや。
ワシ、なんや、ひねくれて変な風に考えてたんかもしれん。」
「そら、今日は、普段めったにあらへん事が立て続けに起こったんやさかい、しょがおへん。
さ、ホナ明日もあることやし、そろそろ寝まひょか? おやすみやす。」
「へぇ、おやすみやす...。」

 輝斗は階段を降りながら、『未来の映像なんか見せられたら気持ちがニブリよんな、これからはあんなモンは見ん事にしよ。うん、その方がエエ。』と、考え、自分を巻き込んでいるこの大きな流れに、身をまかせてみようと固く決意したのでした。

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第一章・第八話 その4「船長・輝斗の決心」輝ちゃんのエエように、おしやしたらよろし

 輝斗が一階の居間に戻ると、さきほどまでそこにいたミヤコの姿が見えません。
「あれ?おばちゃんは?」
と弥生に聞くと
「輝ちゃんに悪いけど、先にお風呂入らせてもらいますて...。」
と、小さな声で答えました。弥生の膝まくらで、都々はすやすや寝入っています。
「よー寝てるな」
「へぇ、今日は、よっぽど気ぃ張ってたんどっしゃろねぇ...。さっき『お父ちゃん、まだやろか』ゆーて、ひっついてきたと思たら『ねぶたいー』ゆーて、ゴロン...。」
「ふっ。そうか...。」

 輝斗は都々を抱えて二階の子供部屋へと運んで布団に寝かし、心地よさそうにすやすやと眠っているまな娘をしばらく見つめていました。こうしていつものように、安らかな寝顔を見ていると、急に現実に引き戻されたような気がしてきました。
 今日という非現実的な一日を振り返ってみると、今朝の一枚の注文書から始まった一連の騒動は、まるで夢の中の出来事のようでした。
『ワシが宇宙なんか行ってしもたら、家族はどーなんにゃろなぁ...』
 その長い長い一日が、終ろうとしている今、ようやくしみじみ考える時間ができたのでした。

 突然、『宇宙へ行け』と言われ、またその理由というのが『未来からの映像に映っているから』だなんて、自分の意志とは関係のないところで、勝手にすべてが決められてしまっているようで、ちょっとイヤな気分になってきたようです。
 また、本人の自覚はないようですが、今までずっと音沙汰のなかった両親・親戚から何も知らされないまま、急に言われたというのも反抗心を持った原因のひとつであることは、間違いなさそうです。
 
 しかし、あの宇宙空間から送られて来たという映像の中に、ものすごく楽しそうにしている自分の姿があったのも確かな事実なのでした。

「輝ちゃん。お先ぃどした。今日はお疲れさんどしたねぇ」
振り返ると、風呂上がりのミヤコが立っていました。輝斗は都々の部屋の扉をすぅ~と後ろ手に引き、廊下に出ました。
「なぁおばちゃん、ワシノワシがおらんでも、店、大丈夫やろか?」
「ふん...。そら、なんとでもなりまっしゃろ? 
輝ちゃんも、若いジブンには、ヨーお店ほったらかして、ぷいっと外国に行ったりしといやしたやん。」
すっかり忘れていた昔の事をふいに言われ、
「んぁ。...。あぁ、そういう時期もあったなぁ...ははは。」
と、照れ笑いを浮かべていました。

 輝斗の若かりし時代には、いろいろと面白い事がありそうですが、それについては、またいつか機会があればお話するといたしましょう...。

「あぁ、そやった! お店ゆーたかて、肝心の売りモン『お茶』がおへんがな! ぜ~んぶ、船長はんが宇宙へ持って行かはんにゃしぃ~」
「ん?...。くっくっくっ! あぁ、そや。そやったなぁ」
「来年まで、売るもんなんか、な~んにもあらしまへんやんか」
すぐそばで寝ている都々と奥にいる村田くんを起さないよう、二人は声をおさえてクスクスと笑い合いました。

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