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京都二條園2077

かぐや姫以来、初?の京都のSF小説。2077年を舞台にした京ことばによる奇想天外なストーリー。毎週火曜日更新!!はじめてお越し頂いた方は、「第一章・第一話 その1」からお楽しみ下さい。
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第一章・第三話 その1「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?

♪まるたけえびすに おしおいけ♪  
♪あねさんろっかく たこにしき♪  

 意外にも輝斗がハミングしていたのは、日頃あまり良くは思っていない、例の『昆虫型ロボット回収車・ブンブン』が流している『まるたけえびす』の唄でした。今の輝斗はまさに上機嫌そのもの、よっぽど気分がいいようです。
 ただいま彼は上林邸を始め宇治周辺数十軒の同業仲間と、京都市内の何十件かを訪ね終わり、二條園へ帰る道中でした。

「いや~。やっぱり皆、話のわかるエエ人ばっかりやなぁ~」
 行く先々で、その現実離れした話を、やもすれば「カクカクシカジカで~」というような、極めて短時間の内に説明して回ったのですが、すぐにこちらの窮状を察し、普段から仲良くおつきあいをしている同業者はもちろん、軽く挨拶を交わす程度で深い付き合いもなく、ややもすれば素っ気無い態度を取っている同業者ですら、協力する事を快く約束してくれました。
 『困った時はお互い様』の精神が、こんな時代にも京都には残っている事実に、心から感謝する輝斗でありました。

♪しあやぶったか まつまん ごじょぉ...
 こころなしか鼻歌が少しトーンダウンしたようです。

「あぁ~、そやけど今回のコレ、そないに儲かる仕事やないねんなぁ...。
560億7千万円売り上げても、儲けはチョビットしかあらへんにゃサカイなぁ。」
 ポロッと、口をついて出た本音でありました。

 お茶の卸しを引き受けてくれた同業の仲間達ではありましたが、この時期に在庫のほぼ全量を二條園に卸してしまえば、次の収穫期までの2~3ヶ月は商品が無くなってしまい、商売が成り立たなくなってしまうのです。
 しかも京都での商いの基本は、売り上げ金額云々というよりも、大切な顧客への信用をなにより大事としておりますので、今回の取り引きは、各商店にとっていささか迷惑な話でありました。
 輝斗は、そんな事情を重々承知していましたので、せめて各店の一般販売価格(上代)での買取りを提案して、交渉にあたったのでした。
 しかし、その点については、ほとんどの友人たちが『そんなんでは商売にならへんやないか?』と、逆に心配してくれたのです。
 
♪せったちゃらちゃら うおのたな♪
♪ろくじょうさんてつ 通り過ぎ♪ 
 トーンダウンしていた歌声が、いつのまにやら大きくなってきました。

「まぁ、ブツブツゆーてても、しょがないわなぁ~ 皆が値引きしてくれはったサカイ、ちょこっとでも利益が出んにゃし、ありがたいこっちゃと思わなアカンなぁ...。」

 実際、ざっと勘定してみたところ、保管や物流にかかる費用、通信費に交通費、税金など、さまざまにかかってくる経費を差し引いてしまえば、たった数十万円足らずの純利益しか残らない計算になってしまうのです。
『560億7千万円』という驚異的な売り上げの影には、驚くべき利益率の悪さが隠されていたのでした。さきほど友人たちが口々に発した『骨折り損やで』という言葉が、心にしみ入る輝斗でありました。
 
 世の中、そうそう「うまい話」は転がっていないものですね。ふふふ。

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第一章・第二話 その4「前ぶれーション」 なんぼなんでも!どこのどなたはんどっしゃろ?

 同じ頃、京都新高速に乗り、上林家を目指し宇治に向かって車を飛ばしていた輝斗もまた、車の中から同じ現象を見ていたのでした。
「.....。今のは、なんやったんや?
銀色のアレは...。なんやったんや?」

 子供の頃から視力にだけは自信を持っている輝斗の目には、瞬時に西の空に消えて行った雲の切れ目の先端に、銀色に輝く星のようなものが見えていたのです。これは彼の家族はおろか、輝斗以外の他の誰の目にも確認されなかった物体でした。

 しばし今の現象について考え込んでいた様子の輝斗でしたが、京都新高速を降り、宇治川沿いの道に差し掛かった時に、見なれた『平等院まで3キロ』という標識を見つけ、今おかれている現状を思いおこしたようでした。
「はぁ~、そやけど今回のこれ、皆に上手いこと説明できんのやろか?」
なんとか集められたとしても、デリケートなお茶の事です。今度は、保管場所の確保や保存方法、加えて輸送手段の問題もでてきそうでした。またしても不安な気持ちがふつふつとわいてきたようです。

「あかんあかん! まずはお茶を集めるこっちゃ...。」
せっかく二條園を出た時には、前向きな気持ちに切り替わっていたはずなのに、彼にとって、あまりにも荷の重い今回の事を、たったひとりで考えていますと、また、ブツブツと悪いクセがでてきてしまったようです。
 
 先程の現象は、のちに二條家の人々には大切な『思い出』となり『前ぶれ』と呼べるものになりましたが、世間一般では目撃者が大変少なかったうえ、写真などの投稿もなかったためか、ほとんど語られることはありませんでした。
なぜなら、その夜のニュースでは、これから京都を舞台に展開する、世界をあっと驚かせる『ある計画』が発表され、そのスケールの大きさに、今日のちっぽけな出来事はかき消されてしまったのです。
 
 さて、一体これからどう展開して行くのでしょう。

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第一章・第二話 その3「前ぶれーション」 なんぼなんでも!どこのどなたはんどっしゃろ?

 ふだんの二條園における商いの心配事といえば、毎月の注文、売上げが少ない場合や、卸先からの予定していた入金がない場合などですが、今回のケースは、大量注文の一括大口売上げ。しかも納品前に先払いの入金済み。
 本来ならうれしい悲鳴が上がるはずなのですが、なにせ、今まで取り扱った事も無いお茶の量をどう確保するかという問題が先行して、逆に窮地に追いやられてしまったような状態です。
 
 輝斗の乗ったバンを見送っていたミヤコと弥生は消え入りそうな小声で話をしていました。
「そやけど弥生ちゃん...、今回のことは、ウチほんま心配やわ。」
「ミヤコおばちゃんもどすか?...。」
二人とも、仕事に対しては異常なまでに責任感の強い輝斗を知っているだけに、心の底から案じていたからです。
 
 と、その直後の事です。
どこからか、柔らかくて透通るような調べが聞こえて来たのです。
 それは今まで聞いた事もない、珠玉のオペラハーモニーのような、なんとも心地良く空気を震わす『メジャー和音』でした。またそれは、遠い空から聞こえて来るようでした。

「や、弥生ちゃん! あれ、あれ」
ミヤコは思わず弥生に抱きつきました。ミヤコが指差す東山方面の空を見上げた弥生も
「へ? ひゃ~~~~~~~!」
声にならない悲鳴をあげミヤコに抱きつきました。

 東山方面の空は、雲が上下に真二つに切れ、その雲の切れ目からはキラキラと七色にも輝く太陽の光が差し込み揺れていたのです。またその不思議な光のカーテン?ともいうべきものは、瞬きをするほどのほんのわずかの間に二人の頭上を超え、さらに西の方角に伸びていきました。そして、オーロラのような尾を残しながら直線を描き、最後は西山へと消えていきました。
 東の空を振り返ってみても光のカーテンは、すでに跡形もなく、さきほどまで聞こえていたはずの『メジャー和音』もいつのまにか消えておりました。もう一度、西の上空を見渡してみても、やはりいつもと同じ穏やかな京都の空が広がっているだけでした。

 いったい今のは何だったのでしょうか?。あの上空から聞こえてきた美しい旋律、そしてその直後の光の芸術ともいうべき空中現象。
しばらく二人は抱き合ったまま、じっと空を見上げておりました。

「お母ちゃん、ミヤコおばちゃん。今のン見た?」 
そこへランドセルをしょった小学生の女の子が息せき切って、駆け寄ってきました。
 輝斗と弥生の一人娘『都々(トト)』です。
学校の帰り道、彼女も一生忘れないであろう、不思議な光景を目撃したのです。

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第一章・第二話 その2「前ぶれーション」 なんぼなんでも!どこのどなたはんどっしゃろ?

「あ~もしもし、上林さんどすか...?
いやぁ~、いつもお世話になってます二條どす。せんだってはエライすんまへんどしたなぁ。 ・・・ いえいえ何を言わはりますやら。
こっちこそ気ぃ使こてもうて。へぇ?・・・ ハハハッ いえいえ!
ところで上林さん、今日は、ちょっと相談に乗って頂きたい事がおしてなぁ。 
へぇ。まぁ、電話で済ますのもなんどすサカイに、あとで寄してもーてもかましまへんやろか? ・・・ハァ。へぇ、 あぁ、そら、おおきに。ホナまた、のちほど。」

ガチャッ。チ~ン。カチャ カチャ カチャ・・・

「あ~おおきに、垣口さんどすか?いやぁ~、いつもお世話になってます二條どす。
ハハハ・・・こないだはエライおおきに。 ・・・いやいやいや ・・・」
 
 輝斗は次々に心当たりの同業仲間に電話をかけていきました。
その横でミヤコと弥生は、小声で話しておりました。

「そやけど弥生ちゃん。今までいっぺんも取り引きさしてもうてへんのに、先にお金までキーッチリ振り込んでもろて。商売としてはありがたい話なんやけど...」
「そうどすな...。けどぉ~商品があらへんいう事では、どもならしまへんしねぇ。
いやぁ~、そやカテこんだけのお茶を、どないしたら集められるっちゅーにゃろねぇ。
おばちゃん、これがホンマの『無茶』いいますんやろかね~
うふふ...」
 
 場をなごますのも京女の努め...とはいえ、実際にはそんな悠長な事を言っている場合ではありませんでした。
というのも、市場に流通しているお茶袋の最も大きいサイズ、いわゆる大袋でも一袋に二百グラムしか入りません。お茶一トンを大袋で換算すれば五千袋にもなります。
今回の『ジョニーK/フロム・イーストコースト』さんからの注文合計が770トンですから、先程の計算でいきますと、実に大袋で385万袋になります。
もっとわかりやすく考えれば『10トン』トラックで約八十台分。

 これから、お茶の収穫期を迎えるこの時期とはいえ、途方もないお茶の量であることには変わりありません。
いやはや、まさにこういうのを『無茶苦茶』と言うのでしょうか。ふふふ。

「あ~おおきに、橋本さんですか?いつもお世話になってます二條どす。
ハハハ・・・いやぁ~、こないだはエライごっつぉになりまして。
いやいやいや・・・ほんにきずつないこっとしたわ・・・
ところで、今日はちょっと折り入った話がありましてな、ハァ。へぇ・・・ 
ほな、後でよしてもらます。はいはい、へぇ、ほな、おおきに」 ガチャッ。

「中井さんですか?いやぁ~、ご無沙汰してます、輝斗です。ハハハ・・・
いやぁ~、お母さん、おおきにおおきに。 ・・・いやいやいや ・・・」

 とまぁこんな調子で、輝斗はあっと言う間に同業の五十件ほどに電話をかけ、次々とアポを取っていきました。やはり、いざ!という時にモノを言うのは、日頃の付き合いと人望なのかもしれません。

「ホナわし、ちょっと出てくるわ。」
骨董品さながらの受話器を電話に戻した輝斗は二條園のロゴが入った、これまたちょっと古臭い時代遅れの型の配達バンに乗り出かけて行きました。

「お父ちゃん、おはようおかいりやすぅ」
「輝ちゃん、気ぃお付けやっしゃ」
弥生とミヤコは、二條園のバンが見えなくなるまで軒先きで見送っていました。

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