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京都二條園2077

かぐや姫以来、初?の京都のSF小説。2077年を舞台にした京ことばによる奇想天外なストーリー。毎週火曜日更新!!はじめてお越し頂いた方は、「第一章・第一話 その1」からお楽しみ下さい。
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第一章・第七話 その5「え?しらんかったん?」ニューヨークまでじきどっせ

 輝斗は『ほ~っ、飛ぶんやのーて消えてしまうんやなぁ... はぁ、乗ってみたいモンやなぁ』と思いつつ、宇宙船が消えていった空を名残り惜しそうに見つめていると、後の人だかりから、
「きゃあー?」
「いやん、かっこいい!」
「お名前はなんとおっしゃるんですか?」
という若い女性の声が聞こえました。

 輝斗が、『むっふっふ...。さてはワシが船長と知って、もうファンがでけたみたいやな』と、とっておきの笑顔で黄色い歓声がした方を振り返ると、そこには高校生くらいの若い女の子達にぐるり囲まれて、ちょっと困惑しているような村田くんがいました。

『なんや、村田くんの事かいな...。ま、そらそやな...。』がっくりと肩を落としてしまった輝斗でしたが、女子高生の取り巻きをかき分け、輝斗の前に立った村田くんは、真直ぐに彼を見つめて言いました。

「さぁ、船長行きましょう。」
「ん?...さぁ行きましょうて、どこ行くんや」
「ふふふ。これから『二條園デバー』で、ナイトクルージングですよ」
「ふおぉっ!乗れるんか?
そらエエ、そらエエわ!
ワシ、ハヨ乗ってみたかったんや」
またしても輝斗の心の声を、いち早く察知したかのような、村田くんの提案に、輝斗はこれ以上はないというくらいにうれしそうな顔をして、手を差し出しました。
「これから、よろしゅうたのむわな」
「はい船長! こちらこそ、よろしゅうおたのもーします!」
と、村田くんも目をかがやかせて輝斗の手を取り、うっとりするほど美しい笑みを浮かべて答えたのでした。
 この時、さきほど村田くんを取り囲んでいた女の子たちからため息とも悲鳴ともつかぬ声がこぼれていたのは言うまでもありませんが、二人の耳には届きませんでした。この時二人は何も口に出しては言いませんでしたが、宇宙でのパートナーとして固い握手を交わしていたのです。

 その後、村田くんは、見物の群集に向かい
「みなさん、エライ遅までお騒がせしてすんまへんどしたなぁ。どーぞお引き取り下さい」
と、大きい声で呼び掛けましたが一向に人だかりは、その場をはなれようとしませんでした。ふぅ...と一息ため息をついた村田くんは、リストバンドを操作すると『二條園デバー』下部扉からビームが降りて来ました。
輝斗はミヤコと弥生、都々の3人に
「ほな、ちょっと行ってくるサカイに」
と言い残し、村田くんと共に『二條園デバー』から発せられるビームに吸い込まれていきました。機体は上昇した後、『金閣』と同じように心地よいハーモニー音を奏でながら、西の空へと消えてしまいました。

 それを見上げていた群集は、一人、また一人と、次第に帰り始め、ようやく二條園界隈はいつもの静けさを取り戻しました。

 残された家族の3人は『お父ちゃんらどこ行かはったんやろ?』と、しばらくあっという間に消えてしまった西の空を眺めていると、二條園の電話が鳴りだしました。こんな遅い時間にいったい誰からだろうとミヤコと弥生が考えている間に、都々が
「ウチが出る~。」
と走って店に戻り、「はい、もしもし~。」と嬉しそうに受話器を取ると

「あぁ~もしもし、ワシやワシ。都々か?」
「うん。お父ちゃん、今どこにいんのん?」
「ははは。今、お父ちゃんな、
インド来てんねん、インド。」

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第一章・第七話 その4「え?しらんかったん?」ニューヨークまでじきどっせ

「ええ~っ! ニューヨークまで15分?」輝斗は驚きのあまり、後ろにのけぞりました。
 会長は続けます...。
「実際の飛行時間はたったのワンセカンドなんだけどね。フフフッ
いろいろと細かい準備にちょっとタイムロスしちゃうんだよねー」
「え? ワ、ワンセカンド...て1秒? え?1秒?」
 輝斗の身体はさらにありえないほどの角度にまでのけぞりました。ギシギシと叫びをあげていた輝斗の背中を押しながら京太郎は
「ま、明日の面接を済ましたら、本部に遊びに来たらエエ」
と言い、元の姿勢にまで戻してくれました。

 輝斗は腰をさすりながら
「そやけど...、部外者がそんな簡単に研究所の中に入れてもらえるんか?」
と聞くと、武士会長が
「輝斗くん。今までセキュリティがハード過ぎてすまなかったね、長い間、寂しい思いをさせて本当にすまなかった。だが、もう全てが完成したからザッツオーライなんだよ。なんなら都々ちゃんや弥生さん、ミヤコちゃんも来ればいい」と答えました。
 
 帰り仕度を済ませた一行は、ぞろぞろと奥の間から店の玄関の方へと向かいました。木戸を開け、一歩外に出ると『二條園』の店先は、やはり人込みでごったがえしており、加えて報道陣や警備隊、消防車まで集まって、よりいっそう賑やかな状況になっておりました。

『なんや、さっきんより人がたんと増えたよう...な...。 へえ???』
二條園上空を見上げた輝斗は驚きました。『二條園デバー』の横に並ぶように同型のゴールドコーティング仕上げの会長専用機『金閣』が空中停止していたのです。

 これからアメリカに帰る4人は、都々をかこんでしゃがみこみ
「都々ちゃん。今度はおじいちゃん、おばあちゃんトコにおいないや。」
「みなで待ってるしな」
と、都々の頭を優しくなでていました。

 京太郎は金ピカの会長専用機『金閣』にリストバンド型のコントローラーを向けて、なにやら操作をしました。すると、停泊していた宇宙船の下部扉がゆっくりと開き、クリーム色のやわらかいビーム光が地上に降りてきました。武士会長は
「グッバイ、さらばじゃ輝斗君」
と言い、そのまま空中に浮き上がりました。そして『金閣』に、ゆっくりと吸い込まれていったのでした。
 見物に集まっていた大勢の人々から『おおっ』という、どよめくような歓声を上がっています。
続いて、京子、ミヒルも
「おやかまっさんどした~」
「おおきになぁ、また遊びにおいでや~」
といいながら、次々とビームに吸い込まれていきます。
最後に京太郎が、
「輝斗、村田くんの面倒キッチリみたってや、たのむで~」
と言いながらまた『金閣』に吸い込まれていきました。

 それから、ビームそのものが『金閣』の機体に吸い込まれるようになくなると同時に下部扉が閉まり、機体は上空に高く舞い上がりました。しばらく、輝いたり暗くなったりをくり返しているうち、突然にまた例の心地よいハーモニー音が聞こえたかと思った瞬間にまるで流れ星のように東北の方面に消えてしまいました。

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第一章・第七話 その3「え?しらんかったん?」 ニューヨークまでじきどっせ

『ワシの思うようにて言われてもなぁ...。』
と、輝斗が考え込んでいると、京太郎が何かを思い出したかのように
「あっそや、輝斗。『日影さん』を紹介せなあかんなぁ。」
と言いました。
「日影さん?」
「メカニックの担当者や。すご腕の持ち主やで。なんしか『ビッグポッド』内外部のメンテナンスをたった一人でやってしまうにゃからな。」
「へぇ~~~。」
と返事をしたものの、輝斗には『ビッグポッド』とやらがどんな代物なのか検討もつかなかったので、それがどんなすごい腕の持ち主なのかももちろんわかっていませんでした。

「ほんで、明日の面接の事やけどな。段取りは村田くんに任せといたら、どもあらへんし。」
ズズッとお茶をすすり、上等のワインを楽しむかのように舌の上でお茶をころがすような仕草をし
「あぁ、やっぱり京都のお茶はおいしいなぁ...。」
しみじみ味わっている京太郎でありました。

 そこへミヒルが二人の間に割って入りました。
「お父さん、そろそろ行きまひょか...て、京子姉さんゆーてはるんやけど...」
時計を見ると、もうそろそろ日付けが変わる頃、23時50分になろうとしていました。

「ああ、もうこんな時間か、こらアカン。」
と言って、バタバタと帰り支度を始めた京太郎に、輝斗が信じられないという顔をして
「今、帰ってきたトコやのに、どこ行くつもりや」
と問いました。

「すまん...。今日は、このプロジェクトをな、一応ニューヨークでプレリリースしてから京都まで来たんやけどな。現地EST(東海岸標準時)で、今日の朝の11時からワシントンで、緊急会見ちゅーのを開くことになってしもてなぁ。ほんで今からトンボ帰りせなあかんちゅー訳や」
「え~~~、今からアメリカに戻って今日の朝の11時から会見て...。んん?なんやややこしけど...。あぁ、時差の関係で間に合うんか?」

 すると、京太郎の横に座っていた武士会長が立ち上がり
「輝斗くん、今日本は夜の0時だが、ESTではまだ朝の10時なんじゃよ。」「今、朝の10時??? 11時に会見て...。絶対間に合わへんやん!」
武士会長はそのセリフを待っていたんだとばかりににんまりと笑いました。

「...輝斗くん。『二條園デバー』にライディングすれば、たったのフィフティーンミニッツで我がホームまで帰れるんだよ」
「フィフティーンミニッツ...。
ええ~っ! 15分?」

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第一章・第七話 その2「え?しらんかったん?」 ニューヨークまでじきどっせ

 ミヒルは孫、都々のまんまるした目を見つめ、
「そうえ~。積もるまで降るゆー事はそうそうあらへんかったけどな。比叡おろしが吹いて寒い日ぃにはな、真っ白い雪がよう降って...、そらぁ綺麗なもんやったんえ~。」
とやさしく言いました。
「ふ~ん。比叡おろして何?」
「ん? 比叡おろしゆーたらなぁ。比叡山から吹くちべたーい風のことや。比叡おろしが吹いたら、そらさぶかったんえ。」
「ウチ、雪、見た事ないねん。ウチも雪のつもった金閣寺、いっぺん見てみたぁ~いぃ!」
と、都々がダダをこねたように言うと、武士会長が
「そうそう、ミヤコちゃんも『ウチも雪のつもった金閣寺、いっぺん見てみたぁ~いぃ!』といって聞かなかったんじゃよ。はははっ
それで仕方なく3人で初デートに行ったという訳じゃ」

 一同はなごやかな雰囲気の中、当時を振りかえりながら、会話をはずませていましたが、輝斗一人だけは求人広告を食い入るように見つめていました。
「年齢とか性別とか...。条件とか適正とか...。」
なんやらブツブツつぶやいていたかと思うと、おもむろに求人広告から顔を上げ、横に座っている京太郎に聞きました。
「なぁお父ちゃん、この『宇宙船内での軽作業』て、何すんにゃ?」
「んぁ?お茶のな、袋詰めやらなんやら、ま、雑務一般や」
「ふ~ん。ほな『時たま販売』ちゅーのは?」
「配達先の惑星で、直売会があった時のためや」
「配達先の惑星で直売会て...。卸すだけやのーて、そんなんまでせんならんのかいな?」
「さぁ?...。どやろなぁ...。」
と、はぐらかすような返事です。

 どうやらこれから起こる事態を詳しく話してくれそうにはありませんでした。もしかしたら、例の未来からの映像に『そういうシーンがあったのかもしれへんな。』と考えた輝斗は、質問を続けます。

「ほな、『簡単なロボット操縦者』て...。これどんなロボットなんや?」
「ふっふっふっ。ま、ゆーたら作業用ロボットや。誰でも簡単に動かせるように出来たんねん」
「ふ~ん?...。それフォークリフトみたいなモンか?」
「フォークリフトなぁ...はっはぁ~、ウマい事ゆーたモンや。そうそう、ゆーたらそんなトコや...。ま、ワシが設計したんやけどな、これがまた結構イカツイのもあんねン、実物は来週にでも見にきたらエエ」
「ははは。イカついフォークリフトか...。へぇ~なんやおもろそうやなぁ。お父ちゃん、むかしっからプラモデルやら好きやったもんなぁ~」
「はははっ、お前ヨー知ってるやんケ...。」
とうれしそうに笑った後、急に真剣な表情で、輝斗の目をまっすぐに見て続けました。
「...輝斗。宇宙船に関するモンは、なんしかお前の為に作ったようなもんなんや。」
「え?...ワシのため...?」
と、またしても何の事か理解できない輝斗に
「なんでもお前の思うようにしたらエエ...」
今度はうつ向いた京太郎が、照れくさそうに言ったのでした。

 輝斗は『...。ホンマにそんなんでエエんかいな...』といぶかしんだのですが、子供の頃、一緒にプラモデルを組み立ててくれた若い父の姿からは想像もつかない年老いた姿を前に、口に出す事はしませんでした。
そんな輝斗の思いを知ってか知らずか、京太郎はうつ向いたまま、
「お前の思うようにしたらエエ、ちゅーこっちゃ」
ともう一度くり返したのでした。

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第一章・第七話 その1「え?しらんかったん?」 ニューヨークまでじきどっせ

『きみも宇宙船で働いてみないか?』
と新聞の求人広告の見出しには書かれていました。

 しかし、仮にも地球を離れて遠い宇宙へ旅立つという一大決心が必要とされるミッションに対して、あまりにも軽すぎるフレーズではないでしょうか?あたかも『きみもサウナで汗をかいてみないか?』といったノリです。しかも、続いて、募集人員の欄には

 宇宙船内での軽作業員及び、あいさに船外にて販売員 若干名
 簡単なロボット操縦者               若干名
 調理人                       一名

とあります。
『宇宙船内にて行う軽作業』とはいったい何をするのでしょう?
『あいさに船外にて販売員』とは?
 京都中から集めた770トンの宇治茶を配達するだけではなく、『時たま』宇宙空間でお茶の販売も行うというのでしょうか?
さらに『簡単なロボット操縦者』とはどんなロボットを操縦しなければならないのでしょう?

 事の詳細を輝斗に知らせず、勝手に『二條輝斗』名義で求人広告を出した当の武士会長は、食事をさっさと済ませて京子やミヒルと一緒になって、一人娘・都々を相手に、ワイワイと楽しく盛り上がっておりました。

「都々ちゃんは、初めて出会った頃のミヤコちゃんに、ジャストライクだね。ミヤコちゃん、リメンバー?」
「イヤ、恥ずかしいわぁ。」
と、年がいも無く顔を赤くする77歳のミヤコに、京子が
「ふふふ...。ミヤコ、あんた憶えてるか?初めて武士さんの車で、雪の金閣寺に連れてもーた日ィ。『ウチも一緒に行くぅ~、お姉ちゃんもハヨ行こぉ~』ゆーて聞かへんかったやろ?」
「うふふっ。忘れますかいな。雪が降らなんだら二人の結婚は無かったかもしれへんなぁて、せんど言うてたやん」
「そうそう。あん時お店の前で、しらんまに武士さんと『雪合戦』してたんやったなぁ」
と、遠い昔の想い出話に花を咲かせていると、ミヒルの膝に座っていた都々が、急に
「えぇ? 昔は、京都でも雪降ってたん?」
と、めいっぱいに目を大きくして、心底驚いた顔をしていました。

 20世紀後半から危惧されていた『地球温暖化』ですが、温室効果ガスを2008年から2012年までに先進国で5.2%削減することが定義された『京都議定書』が2005年に発効された後も、各国の取り組み姿勢には相当に隔たりがあり、目標値には到底届かない結果となりました。
 異常気象が頻繁に発生し、災害が各地を襲うようになってから地球規模での対策がとられるようになったのでした。
 その後、CO2削減は順調に進んだのですが、気温の上昇を留めるに過ぎず、回復するまでには至りませんでした。一度失ってしまった環境はなかなか取り戻せるものではありません。

 2077年現在において、日本で雪が降るのは北海道だけになっていたのです。『本州では雪は降らない』が常識となっている時代でした。
 
 京都で雪が観測されたのは今から50年も前、2027年が最後だったのです。

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