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京都二條園2077

かぐや姫以来、初?の京都のSF小説。2077年を舞台にした京ことばによる奇想天外なストーリー。毎週火曜日更新!!はじめてお越し頂いた方は、「第一章・第一話 その1」からお楽しみ下さい。
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第一章・第三話 その5「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?

 さて、突然に帰宅した輝斗の両親...。

 父の二條京太郎が高校生だった21世紀初頭。
 かつて任天堂「wii」のオンライン・ゲームプレイヤーが2億人に達した頃に、名うての天才プレイヤーとして「ジョニーK」というハンドルネームを世界に轟かせていたのです。
 そして「イーストコースト」は、いわずもがな「アメリカ東海岸」。
 
「ジョニーKフロムイーストコースト」
 
 50数年前、京太郎が母と自分をなかば置きざりにするようなかたちで出向してしまった宇宙開発研究施設があるアメリカの東海岸...
 輝斗はようやくいままで苦労して解けなかった謎の真相がわかり、パズルの最後のピースがぴたっとはまったような爽快感を味わいました。

「もう~。なんや、二人とも! 最初にひと言ゆーてくれたら良かったのに!」
「ふふん お前をびっくりさしたろ思てな ふがぁ~っはっはっは」

 泣きながら喜ぶ息子を見て爆笑かつ豪快に笑う父、それをあたたかく見守る優しい母のまなざし...。一見したところおかしな光景ではありましたが、三人にとってのこの再会は、あまりにも長い時間を経てようやく実現したものでした。

「お父ちゃんも、お母ちゃんも。おかえり...。僕、長い事待ってたんやで」

 まぁ、何年離れていても、またいくつになってみても、親子は親子。父と母との再会を喜ぶあまり、込み上げてくる少年の頃の寂しかった思い出に、またもや涙する輝斗でありました。

ああ、良かった...。良かったね...輝ちゃん。

 しかしこの時点では、地球の未来を根底から変えてしまう「壮大なる宇宙への旅」に関する概要を、輝斗はまだ何も知らされていなかったのです。彼が「やっとできた!」と、思ったパズルは、これからあかされる一連の宇宙開発プロジェクトのごく一部分、単なる序章に過ぎないのでした。
 
 しかも喜びのあまり、二條園上空に浮かぶ例の『飛行物体』の事なんて、す~っかり忘れてしまっている輝斗なのでありました。

 同じタイプの「超光速移動体」がもう一機。刻一刻と彼のもとに近付きつつある事も、つゆ知らず...。

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第一章・第三話 その4「輝斗おかえり」て、どちらさんどす? 

 輝斗が見知らぬ老紳士に向かって
「...。 どちらさんどしたんかいな...」
と言い終わらない内に

「輝ちゃん。会いたかった」
と、店の奥から老婦人が出て来て、輝斗をしっかりと抱きしめました。
 輝斗の背中に腕をまわし、彼の胸に顔をうずめて「輝ちゃ~ん。輝ちゃ~ん。」とくり返し輝斗の名をつぶやいているその声はくぐもってはいましたが、泣いているように聞こえました。

 とっさの出来事でしばらくの間、輝斗はどうしていいのかわからずに、されるがままにしていましたが、ハッと何かに気付いたようにその老婦人の両肩に手をおき、涙を浮かべている顔を覗き込みました。

「お、お母ちゃん? お母ちゃんか!」
「イヤ! もう輝ちゃん。 お母ちゃんに決まってるやんか。」
 少し落ち着いた様子の老婦人は涙を拭いてちょっと恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべています。
ここ30数年来会っていない母の「ミヒル」でした。

 突然の毋との再会がうれしい反面、まだ信じられないといった表情の輝斗は、改めて、座っている老紳士に向かって、
「...っ ちゅー事は、もしかして...。お父ちゃんか?」
と聞きました。

「...。 なんやお前、気ぃ付かへんかったんかいなー。」
 母が家を出た30数年前よりさらに以前、かれこれ50数年もの歳月を経て帰宅した父「京太郎」は、ほくそえむような表情をうかべています。

「当たり前や。もう...。もう...。50年も、何の音沙汰も無しやったやないかぁ」

 輝斗にはこんな場面で笑っている父の心境が、全く理解できませんでしたが、母に抱きしめられた彼の目には、キラリと光るものが見えていました。
 しかし、そんな彼の気持ちをもてあそぶかのように、ニヤニヤしたままの京太郎は続けます。

「注文書に、ちゃーんと書いといたやろ?
ジョニーK/フロム・イーストコーストて...。」

「えっ...?」
 それを聞いた輝斗は目が点のようになりました。そして

「うぁあぁあぁあぁーーーーーー。お父ちゃんやったんか!」
 と叫び声に近い大声をあげたかと思うと、年がいもなく子供みたいに泣き出してしまいました。

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第一章・第三話 その3「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?

 一人は二條園の向いに住んでいる「吉野さん」。
 今どきめずらしく日本髪を結った老婦人で、ずいぶんふくよかな体格をしています。またその顔には、人の良さがにじみ出ているようです。
「えらいすんまへんなぁ。ここ、ちょっと空けとくれやすな」
と、言葉使いもていねいに、やわらかく優しい声で周りの人々に、協力を求めています。

 もう一人は、二條園のハス向いに住んでいる「染井さん」。
 こちらは相当のこだわりでもあるのか、身に付けている物全てが『紫色』にコーディネートされ、特にその「マむらさきの髪」がなんとも印象的な、ほっそりとした体形の老婦人です。なかなかにするどい眼光をメガネの奥から覗かせ、
「ほれ!ここの御主人通らはっサカイ、ちょっと道あけて! 
 ほれ、みな道あけとぉくれやっしゃ。ほれほれ!」
と、こちらは、まるでドラ猫のようなしゃがれた声で、有無を言わさないような迫力ある指揮をとっています。

 お互い見た目は対照的ですが、実は大の仲良しで近所の住人からは『おみきどっくり』と呼ばれています。二條園の『喫茶コーナー』に、ほぼ毎日お茶を飲みに来てはお喋りを楽しんでおり、二人と輝斗はお互いのことを何でも知っている間柄です。この二人の呼び掛けで、人込みはどよめきながらも、なんとか車が一台通るだけの隙間ができました。
 輝斗はその間を「おおきに、すんまへんなぁ」「エライすんまへんなぁ」と群衆にむかっていちいち声をかけながら、ゆっくりと自宅のガレージに進んで行きます。

『はぁ~、ナンギなこっちゃなぁ~』と、心の中でつぶやきながら。

 さて、上空のその物体に『お茶処・二條園』の文字があるからには、この騒ぎが、自分に関与しているという点については、まず疑いようがありません。
 本来ならその非常事態に、動揺しパニックになってしまうような状況でしょうが、その姿はいたって落ち着いているようでした。
 
 何があろうとも『慌てず、騒がず』。
 京の老舗に生まれ育った彼の取るべき行動がこの場面にも自然と出て来たのでしょう。普段と変わらないその態度を目にして、集まっている人々も決して騒ぎたてたりはしませんでした。

 なんとか車をガレージに入れ、ふーっと一息ついてから、ガレージ内に設けてある勝手口から店に入ったその時、

「輝斗、お帰りーっ」
と、彼を迎えたのは、二條園の『喫茶コーナー』の1席に座っていた一人の老人でした。

「ただい . . . ま。 . . . ん?」
反射的に答えた彼ですが、出迎えてくれたこの人物にまったく見覚えがありません。

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第一章・第三話 その2「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?

『さぁ...、店帰ってからがまた大変や。色々と、せんなんしなぁ~』
などと考えている内に、輝斗の車は二條園のすぐ近くにまで差し掛かりました。と、その時、急に彼はブレーキを踏み込んで停車し、辺りをキョロキョロと見渡しました。  
 なぜならあまりにも多くの人々が店の前を埋め尽くしていたので、一瞬道を間違えてしまったのかと錯覚してしまったようです。

「なんや!? なんの騒ぎや。皆、ワシの店の前で何してんにゃ?」
 ざっと二~三百人にはなろうかという人だかりが、二條園の前に出来ていたのです。
 しかもそのほとんど全員が、空を見上げて指をさしているのでした。輝斗も皆が指さす空中をフロントガラスごしに覗き見てみると...。

「なんやアレ! なんであんなもん、宙に浮いてんにゃ?」

ふぅ~。
驚いたことにそこにはなんと!およそ3世代程前のデザインと思われる水色がかったシルバーのジェット機のような物体が、微動だにせず空中停止していたのです。
 しかもほんの10~20m上空という至近距離...。二條園の屋根にのぼれば、簡単に手が届きそうな所にポツンと浮かんでいました。レトロな機体の曲線は、どこか懐かしさを感じさせるシルエットを描いていますが、エンジン音らしきものは、一切聞こえてきません。
 それどころか、聞こえてきたのは、昼間かすかに聞こえたあの不思議な『メジャー和音』だったのです。
 しかも、両翼には『お茶処二條園』という文字が見てとれました。

「はぁ? なんでやねン! なんでウチの店の名前が書いてあんねン?!」
 
 今日という長い一日にやっと一段落がついて、これからゆっくり風呂にでも浸かり、その後、発泡酒でも飲んでのんびり休もうと考えていた彼ですが、まだまだそんな時間が持てるのは先の事になりそうでした。
 しかし、とにかく今は、事の真相を確かめるためにも、一刻も早く店に帰らなければなりません。

プーッ、プーーーッ
遠慮がちにクラクションを鳴らし、車窓から顔を出した彼は、
「ちょ、ちょっとすんまへんなぁ。ちょっと通しとくりゃす。」
人だかりに向かって申し訳無さそうに声をかけています。
と、そこへ

「あっ!輝ちゃん! あんたどこ行ったはったん?」 
「さいぜんからエライことになってまっせ。」
輝斗の姿に気付いた近所の顔見知りの二人が声を掛けてきました。

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第一章・第三話 その1「輝斗おかえり」て、どちらさんどす?

♪まるたけえびすに おしおいけ♪  
♪あねさんろっかく たこにしき♪  

 意外にも輝斗がハミングしていたのは、日頃あまり良くは思っていない、例の『昆虫型ロボット回収車・ブンブン』が流している『まるたけえびす』の唄でした。今の輝斗はまさに上機嫌そのもの、よっぽど気分がいいようです。
 ただいま彼は上林邸を始め宇治周辺数十軒の同業仲間と、京都市内の何十件かを訪ね終わり、二條園へ帰る道中でした。

「いや~。やっぱり皆、話のわかるエエ人ばっかりやなぁ~」
 行く先々で、その現実離れした話を、やもすれば「カクカクシカジカで~」というような、極めて短時間の内に説明して回ったのですが、すぐにこちらの窮状を察し、普段から仲良くおつきあいをしている同業者はもちろん、軽く挨拶を交わす程度で深い付き合いもなく、ややもすれば素っ気無い態度を取っている同業者ですら、協力する事を快く約束してくれました。
 『困った時はお互い様』の精神が、こんな時代にも京都には残っている事実に、心から感謝する輝斗でありました。

♪しあやぶったか まつまん ごじょぉ...
 こころなしか鼻歌が少しトーンダウンしたようです。

「あぁ~、そやけど今回のコレ、そないに儲かる仕事やないねんなぁ...。
560億7千万円売り上げても、儲けはチョビットしかあらへんにゃサカイなぁ。」
 ポロッと、口をついて出た本音でありました。

 お茶の卸しを引き受けてくれた同業の仲間達ではありましたが、この時期に在庫のほぼ全量を二條園に卸してしまえば、次の収穫期までの2~3ヶ月は商品が無くなってしまい、商売が成り立たなくなってしまうのです。
 しかも京都での商いの基本は、売り上げ金額云々というよりも、大切な顧客への信用をなにより大事としておりますので、今回の取り引きは、各商店にとっていささか迷惑な話でありました。
 輝斗は、そんな事情を重々承知していましたので、せめて各店の一般販売価格(上代)での買取りを提案して、交渉にあたったのでした。
 しかし、その点については、ほとんどの友人たちが『そんなんでは商売にならへんやないか?』と、逆に心配してくれたのです。
 
♪せったちゃらちゃら うおのたな♪
♪ろくじょうさんてつ 通り過ぎ♪ 
 トーンダウンしていた歌声が、いつのまにやら大きくなってきました。

「まぁ、ブツブツゆーてても、しょがないわなぁ~ 皆が値引きしてくれはったサカイ、ちょこっとでも利益が出んにゃし、ありがたいこっちゃと思わなアカンなぁ...。」

 実際、ざっと勘定してみたところ、保管や物流にかかる費用、通信費に交通費、税金など、さまざまにかかってくる経費を差し引いてしまえば、たった数十万円足らずの純利益しか残らない計算になってしまうのです。
『560億7千万円』という驚異的な売り上げの影には、驚くべき利益率の悪さが隠されていたのでした。さきほど友人たちが口々に発した『骨折り損やで』という言葉が、心にしみ入る輝斗でありました。
 
 世の中、そうそう「うまい話」は転がっていないものですね。ふふふ。

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